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広島高等裁判所 昭和24年(新)84号 判決

控訴人 被告人 高見博

弁護人 河野将実

検察官 志熊三郎関与

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人河野将実の控訴の趣意は、末尾添附の控訴趣意書と題する書面記載のとおりである。

原審が本件犯罪事実認定の証拠として挙示した原審における証人国岡平八の訊問調書及び医師小池蔵之作成の国岡平八に対する診断書の各記載によれば、国岡平八の蒙つた判示傷害は全治まで約十日を要したことが認められるので、原審がこれを二週間を要する傷害を蒙つたと判示したのは違法であること所論のとおりであるが、右のような違法は犯罪の構成に消長を及ぼさないのは勿論、その刑期についても影響を及ぼすほどのことではないので、原判決を破棄すべき違法があるとはいえない。論旨は理由がない。

被告人の控訴の趣意は、原判決は刑の量定が不当である。その理由は(一)傷害の程度は医師の診断書より軽いように思う。(二)自分には前科がない。(三)共犯に誘惑されてやつたもので、自分としては犯罪を犯す意思がなかつた。(四)被害は全然ないというのである。しかしながら刑事訴訟法第三百八十一条の規定によれば、刑の量定が不当であることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて、刑の量定が不当であることを信ずるに足りるものを援用しなければならないのであるが被告人の右趣意書に記載してある事実は訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠のうちどこに現われているのか明かにしていないので、被告人の控訴趣意書は右規定の方式に違反し不適法なものとはわねばならない。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条第百八十一条に則り主文のように判決する。

(裁判長判事 三瀬忠俊 判事 和田邦康 判事 小竹正)

弁護人河野将実控訴趣意書

原判決は被告人が山本某と福山市延広町三百九番地劇場千鳥座で映画フイルムを窃取しようと共謀し、被告人に於て同劇場映写内に立入りフイルムを物色中同劇場主国岡平八外二名に発見され逮捕されようとしたので同劇場並側非常口附近で逮捕を免れる為所携の南京錠をもつて国岡平八の前額部を一回殴打し、因て同人に全治約二週間を要する前額部裂傷の傷害を負わせて逃走し奪取の目的を遂げなかつたものであると判示し其の証拠として原審公廷に於ける被告人並証人国岡平八の供述と、医師小池誠之作成の国岡平八の診断書を掲げている。併しながら証人国岡平八「全治まで十日間かかりました」と供述して居り、又医師小池誠之作成の診断書には「全治迄十日間を要す」とあつて全治迄二週間を要したとの記載はない「十日間」と記載すべきを「十五日間」と記載したり「二十日間」と記載したのであれば、不注意に因る単なる誤記と言い得るか「十日間」を「約二週間」と云う異る形態の文辞を以て表現してあるに於ては単なる誤記と軽視して不問に附する事は許されない。即ち原判決は虚無の証拠により事実を認定したものと云うべく破棄さるべきである。

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